何かを始めたい。けれど、何を作ればいいのかは、まだわからない。これから事業を始める方や、次の一手を考えている方から、そんな相談を受けることがあります。
相談の時点で形が決まっていなくても、問題はありません。形を決めることも、仕事の一部だからです。
この記事では、そうした相談を受けたときに、私がどんな順番で話を聞き、企画にしていくのかを書きます。
相談の言葉は、答えではなく入口として聞く
問い合わせには、「ホームページを作りたい」「ロゴを新しくしたい」と書かれていることがあります。「何かやりたいけれど、まとまっていない」と書かれていることもあります。どちらの場合も、私はその言葉を入口として受け取ります。
「ホームページを作りたい」の奥には、新しいお客様に知ってほしい、説明の手間を減らしたい、といった目的があります。目的によっては、ホームページではなく、別の形のほうが合うこともあります。ですから、最初に確かめるのは、作るものではなく、作ったあとに何が変わってほしいのかです。
話を聞くときに、よく尋ねるのは次のようなことです。
- 今、ふだんの仕事で何をしているのか
- なぜ今、それをやろうと思ったのか
- そのために、何を準備しているのか
- 目立つ特徴はなにか
- やらなければいけないこと、そのための予算感はあるか
- いつまでに、どのくらいの規模でやりたいのか
答えがそろっていなくてもかまいません。答えられないところも、企画を考える材料になります。
企画の種は、相手が当たり前と思っていることの中にある
話を聞いていていちばん気にしているのは、相手がさらっと話した、当たり前のことです。本人には当たり前すぎて、価値があるとは思っていないことがあるからです。
kibaco|休憩のお茶を、商品にする
神奈川県葉山町の kibaco tea factory の仕事は、その例です。2020年ごろ、整体とはり灸のお店 kibaco の相談を受けていたとき、オーナーが施術の休憩に漢方茶を出していると聞きました。オーナーの小牧さんは、漢方茶ブレンダーの資格も持っています。お店にとっては、おもてなしのひとつでした。ただ、セルフケアには、施術を受けることだけでなく、自宅でのアフターケアもとても重要です。その要素として、一人ひとりの状態に合わせてブレンドした漢方茶を2週間単位で提供できるのではないかと考え、企画しました。商品名は、漢方と2週間から「二週漢」です。2020年にパッケージを作り、2021年には kibaco tea factory としてホームページとオンラインストアまで形にしました。形になったのは、オーナーが積み重ねてきた施術の技術と、漢方茶の知識があってこそです。お客様の状態を見てブレンドする力がなければ、この企画は成り立ちません。

TOWN|技術と道具から、パターンレーベルへ
2016年ごろに始めたパターンレーベルの TOWN は、持っている技術と道具から生まれました。パタンナーとデザイナーは、それぞれの仕事をしていましたが、町の人に直接届けるという形はありませんでした。パタンナーがカットのできるプロッターを持っていたことから、カット済みの実物大パターンを届ける企画になりました。TOWN の土台は、パタンナーの木地谷良一さんと、デザイナーの渡部まみさんが長く磨いてきた技術です。企画はきっかけで、着る人に選ばれているのは、二人が作る服の形そのものです。
誰に何を届けるのかを、短い言葉にする
どちらも、新しいものを外から持ってきたわけではありません。すでにある技術、資格、道具、人とのつながりを書き出して、まだ仕事になっていない形を考えました。企画ができるのは、そこに本物の力があるときです。相手の力がなければ、どんな企画も成り立ちません。
種が見つかったら、「誰に、何を、どんな形で届けるのか」を短い言葉にします。TOWN でいえば、家で服を縫う人に、カット済みの実物大パターンを届ける、ということです。
短い言葉にできないときは、まだ決まっていないことが残っています。相手が広すぎるのか、届けるものが複数混ざっているのか。そこを話し合うと、やらないことも見えてきます。
この段階で、案をひとつに絞る必要はありません。ただ、誰が続けていくのかは、早めに確かめます。動画の更新や毎月の発送など、良い案でも、担う人がいなければ続きません。相手の得意なことを中心に置き、足りないところをどう補うのかまで考えて、はじめて企画になると私は考えています。
よく考えた結果、今は何も作らないほうがいいという結論になることもあります。その考え方は、「何もしない」を選ぶ理由。に書きました。
予算と期限も、この段階で話しておきたいことです。金額が決まっていなくても、どのくらいの規模で考えているのかがわかると、案の大きさを合わせられます。
軸の収益とは別に、時間に縛られない収益が生まれる場面を作る
企画を考えるときに、もうひとつ大切にしていることがあります。希望の状況を作り、そこから収益を得る。これが企画の軸です。ただ、それとは別に、そこから派生して、時間に縛られない収益が生まれる場面を作れないかも考えます。
ウェブメディアやSNSでは、いろいろな場面から人が訪れるように、入口を増やしていくことを目指します。実際のビジネスでも同じで、いろいろなジャンルの人の目に触れる機会をビジネスの中で広げられるのは、よいことです。
kibaco でいえば、軸は施術で、派生して生まれたのが漢方茶です。施術は、オーナーが手を動かした時間の分の仕事で、受けられる人数にも限りがあります。一方、漢方茶は、施術の時間の外でも届けられます。お店に来られない方にもオンラインストアから届けられ、続けて飲む方には繰り返し届けることもできます。

こうした場面があると、軸の仕事だけに収益を頼らずに済みます。お店を知ってもらう入口になることもあります。
ただし、軸にあるものから生み出さないと、人手が足りなくなるだけです。関係のない商売を外から足すのではなく、軸から自然に派生しているかどうかを、注意して考えます。軸の仕事に来る方がそのまま関心を持てるものなら、説明も少なくて済みます。そのうえで、仕入れや発送など、続けるための手間を担えるかも一緒に確かめます。企画の段階で、軸の収益と、派生する収益を分けて書いておくと、どこから手をつけるのかも決めやすくなります。
企画書には、作るものだけでなく、目的と続け方まで書く
言葉が定まったら、企画書にします。社内で相談するときにも、協力してくれる人に説明するときにも、書いたものがあると話が進みやすくなるからです。私が入れるのは、おおむね次の項目です。
- なぜやるのか(目的)
- 誰に届けるのか
- 何を、どんな形で届けるのか
- 誰が何を担うのか
- どんな順番で進めるのか(小分けにした数値の目標)
- 予算の考え方
- どうやって知らせるのか
- 公開したあと、どう続けるのか(3年程度のロードマップも考える)
ロゴやホームページといった制作物は、この中の「何を、どんな形で」の一部です。作るものの一覧から始めると、それぞれは良くても、つながらないものが並ぶことがあります。知らせ方まで書く理由については、提案書に「届け方」まで書く理由に書きました。
企画書は、きれいに仕上げることより、読んだ人が同じものを思い浮かべられることを優先します。相手の頭の中にある構想を書いたものを見てもらい、「そうじゃない」と言ってもらえたら、それも前進です。
大きな夢を語りながら、小分けの数値目標で一歩ずつ進める
企画には、大きな夢を語ることも欠かせません。その先の景色が見えるから、人は協力したいと思えます。ただ、夢だけでは、結局、ことは進みません。一歩一歩こなしていける数値の目標に小分けにして進めることが大切です。
kibaco や TOWN の例は、うまくいったことをあとから振り返って書いたものでもあります。同じようにすればうまくいく、という話ではありません。ですから、新しい提案は、事例をもとにするのではなく、市場などを調べたうえで導き、具体的な目標にしていきます。どんな人がどのくらいいるのか、似たものがどんな形で届いているのか。そうした調査と、話を聞いて見つけた種を合わせて考えます。
たとえば、3年後の姿を書いたら、今年はどこまで、最初の3か月で何をいくつ、と分けていきます。試作をいくつ作るのか、何人に試してもらうのか、月にいくつ届けるのか。数字があると、進んでいるのか止まっているのかが、関わる人全員に見えます。届かなかったときも、どこを直すのかを具体的に話し合えます。
最初の一歩も、小さくします。企画書ができても、最初からすべてを作るとは限りません。試せる大きさを決めて、始めます。
TOWN は、まずパターンの販売から始め、次にそのパターンで服を作って展示会を開きました。書籍の話につながったのは、その展示会に編集者が立ち寄ったことからです。最初の本が出たのは2019年で、2026年11月発売の『使えるボトムス』で6冊目になります。こうした展開を、最初の企画書に書いていたわけではありません。始めたからこそ、次の話が生まれました。

最初の形を小さくしておくと、反応を見て直すことができます。お客様に何を聞かれたか、どこで手間がかかったかを見て、次の形を考えます。企画は、書いて終わりではなく、動かしながら書き直していくものだと思っています。
相談の段階で、きれいに整理されている必要はありません。今していること、気になっていること、よく言われることを、そのまま話していただければ、そこから始められます。
