「インスタでちゃんとお客様が来てくれているんです。それでも、ホームページって作ったほうがいいんでしょうか」
打ち合わせの終わりぎわ、コーヒーカップを片づけながら、店主の方がそう聞いてくださいました。開店して数年、客足は悪くない。けれど、スタッフや知り合いから「ホームページはないの?」と聞かれるたびに、少しだけ胸がざわつく。そんなご様子でした。
調べてみると、答えはだいたい2つに分かれます。ホームページ制作会社の記事の多くは「インスタだけでは足りない、ホームページは必要です」と書いています。一方で、個人店の店主の方が相談サイトに書いた質問には、「数十万円かけるなら、そのぶんSNSに力を入れたほうがいい」という回答が多く寄せられていました。
どちらも、間違ってはいません。インスタだけで気持ちよく回っているお店もあれば、ホームページを作ってから、はじめての方からの問い合わせが増えたと話してくださったお店もあります。
だからこそ、「必要か、いらないか」の二択で考えはじめると、なかなか決められないのかもしれません。どちらの意見にもうなずけてしまうからです。
ただ、2つの意見をよく読むと、思い浮かべているお客様が少し違うことに気づきます。
「必要です」と言う側が思い浮かべているのは、たぶん、はじめてお店を探している方です。地図アプリで見つけて、行く前に営業時間や場所を確かめたい人。一方、「インスタで十分」と言う側が思い浮かべているのは、もう何度も来てくださっている方なのでしょう。新作の投稿を見て、「今週行こうかな」と思ってくれる人です。
決められないのは、意見のどちらかが間違っているからではなく、見ているお客様が違うからなのでしょう。言いかえると、この問いの答えは、お店そのものよりも、お店とお客様との距離によって変わるのではないでしょうか。
ここから先では、インスタとホームページの役割の違いを、うちの猫の過ごし方から考えてみます。そのうえで、自分のお店に置き換えて判断するための3つの問いと、「なし」と「本格的なホームページ」のあいだにある、もうひとつの選択肢をお伝えします。
インスタは「今日の様子」、ホームページは「いつもの場所」
うちの猫には、お気に入りのクッションがあります。日中は窓辺や棚の上など、気まぐれにあちこちで過ごしていますが、夕方になると、たいていそのクッションに戻って丸くなっています。その両方があるから、安心して暮らせるのだろうなと感じます。
インスタは、窓辺や棚の上にいる猫に近い存在です。今日の仕込みや季節の新作といった、お店の「いま」が流れていく場所で、流れていくことがインスタのよさでもあります。
一方で、ホームページはクッションのほうです。営業時間や定休日、場所、駐車場、予約のしかたなど、季節が変わっても大きくは変わらない情報が、いつ訪ねても同じ場所に置いてあります。
役割が違うので、どちらかが正しいという話ではないと、私は考えています。お店との距離が近いお客様ほど、いつもの場所がなくても迷いません。距離が遠いお客様ほど、いつもの場所を必要とします。
自分のお店に置き換える、3つの問い
距離にはいくつかの面があります。関係の距離、情報が届く距離、そして問い合わせるまでの距離です。それぞれを、問いの形にしてみます。
1. お客様の多くは、はじめての方ですか。常連の方ですか
これは、関係の距離を見る問いです。常連の方が中心なら、お客様はもう場所も営業時間も知っています。インスタで「今日はこれがあります」と伝えるだけで、足を運んでもらえることも多いでしょう。
反対に、観光や贈り物探しなど、はじめてのお客様が多いお店では事情が変わります。はじめての方は、行く前に「本当に開いているか」「どう行けばいいか」を確かめたいものです。その答えがタイムラインを遡らないと見つからないと、そこで行くのをやめてしまうかもしれません。
2. 来てほしいお客様は、インスタを使っている方ですか
これは、情報が届く距離を見る問いです。総務省の調査(令和7年度、2026年6月公表)によると、Instagram(インスタ)を使っている人は全年代で54.8%です。20代では82.6%ともっとも高い一方で、60代では36.1%、70代では15.8%にとどまります。女性は63.4%、男性は46.2%と、男女でも差があります。
若い方や女性のお客様が中心なら、インスタは多くの人に届く窓口になります。けれど、ご年配のお客様が多いお店では、インスタを使っていない方に届く場所も、用意しておきたいところです。
3. 「よく聞かれること」は、どこに書いてありますか
これは、問い合わせるまでの距離を見る問いです。電話やインスタのメッセージ(DM)で、同じことを何度も聞かれていないでしょうか。駐車場はありますか、子ども連れでも大丈夫ですか、予約はできますか、ギフト用に包んでもらえますか。
思い当たることがあれば、それは、お客様が「いつもの場所」を探しているサインだと、私は受け取っています。答えを一か所にまとめておけば、お客様は迷わずにすみます。お店の方が営業中に手を止める回数も、少し減るのではないかと思います。
インスタだけで、ホームページはいらないと言えるお店
答えが「常連の方が中心」「お客様の多くがインスタを使っている」「同じことを聞かれることは少ない」であれば、今はインスタだけで十分なのかもしれません。無理に足す必要はないと思います。どれか1つでも当てはまらなければ、次の選択肢を考えてみてください。
「なし」と「本格的なホームページ」のあいだ
いつもの場所があったほうがいい、と感じた方も、いきなり何ページもあるホームページを作る必要はありません。はじめは、1ページだけの置き場所でも十分な場合があります。
載せるのは、あまり変わらない情報です。営業時間と定休日(臨時休業はインスタで、と一言添えて)。住所と地図、駐車場の有無。よく聞かれることと、その答え。予約や問い合わせの方法。それから、お店が大事にしていることを短い文章で。
作り方は、ホームページ作成サービスを使って自分で作るか、デザイナーに1ページだけ頼むか、が主な道です。自分で作れば費用はおさえられますが、写真や文章を整える時間がかかります。頼めば手間は減るぶん、費用がかかります。お店の忙しさに合わせて選んでかまいません。
もうひとつ、手をつけやすいのが、Googleマップ上のお店の情報(Googleビジネスプロフィール)です。自分のページではありませんが、無料で営業時間や写真を載せられます。ここを整えておくだけでも、地図で見つけた方にとっての小さな「いつもの場所」になります。
ホームページがないと信用されない、と言われることもあります。ただ、はじめてのお客様が確かめたいのは、立派なホームページかどうかより、今日開いているか、どう行けばいいか、なのかもしれません。
変わるものはインスタに、変わらないものはホームページに。そう分けて、互いに行き来できるようにしておけば、季節に一度見直すくらいで続けていけます。
迷ったときは、お客様の一日を思い浮かべてみる
インスタだけで回っているなら、それは、お客様との関係がうまくいっている証拠です。
もし迷っているなら、はじめてお店を訪ねようとしている誰かの一日を思い浮かべてみてください。どこでお店を知り、何を確かめてから家を出るでしょうか。手はじめに、今週、電話やメッセージで聞かれたことをメモに書き出してみるのもひとつの方法です。そのメモが、そのまま1ページ目の中身になります。
夕方、座布団に戻ってくる猫のように、お客様がふっと立ち寄れる場所があるかどうか。答えはお店ごとに違います。そして、その答えをいちばんよく知っているのは、毎日お客様を迎えている店主の方ご自身です。
