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個人事業主の名刺デザイン|「何屋です」の1行から決める

名刺を作ろうと、無料ツールのテンプレートを開いてみる。
書体を選び、色を整え、レイアウトを見比べる。
そこまでは進んだのに、肩書きの欄で手が止まる。
「何屋です」と書けない。
事業のオーナーや個人事業主になりたてのとき、名刺デザインで、いちばん時間がかかるのは、実はこの1行のことが多いのではないでしょうか。

今日は、デザインの話の前に、その1行をどう決めるかについて、書いてみます。

個人事業主の名刺デザインで、最後まで手が止まる場所

名刺の体裁は、ある程度までは型で進みます。
サイズは55×91ミリと決まっていて、紙の質感もいくつかの選択肢から選べばよく、書体もデザインの雰囲気で絞られていく。

ところが、肩書きの1行だけは型で進みません。

「自分は何をしている人か」を一文で書く——これは、ふだん他人に渡している自己紹介を、もう1度ゼロから言葉にする作業です。

会社員のときは肩書きを考える必要がありませんでした。
会社名と部署と役職が、自動的に自分の説明になることが多かった。
独立すると、それがなくなります。

屋号もまだ決めていない、決めても自分にしっくりこない、何屋ですと聞かれたら毎回少し違う答えをしている——そういう状況、あると思います。

正直、私も肩書きを決めるまでに数年かかりました。さまざまな言葉を試して、最終的に、業務を包括的に言い表すためにシンプルな「デザイナー」に落ち着きました。

手が止まるのは、自分の仕事の輪郭をまだ言葉にしていないだけのことが多いです。

「デザイナー」「コンサルタント」と書けば足りるか

肩書きの欄に詰まったとき、いちばん早い解決策は、ジャンル名を書くことです。
デザイナー、コンサルタント、ライター、カメラマン、講師。
職業名が広く知られているものは、これで通じます。

ジャンル名は、最初に「だいたい何の人か」を伝える役割は果たします。
名刺を受け取った人が、引き出しに入れた数週間後に取り出して、「ああ、デザインの人だった」と思い出せれば、それで足りる場面もあります。

ただ、ジャンル名だけでは、届きにくい場合があります。
「デザイナー」と書くと、相手は自分の知っているデザイナー像にあなたを当てはめます。
グラフィックの人なのか、Webの人なのか、空間の人なのか。
何が得意で、誰のために働いているのか。
そこは想像で埋められるか、埋まらないまま終わるかのどちらかです。

ジャンル名を使うのは構いません。実際私もそうですし。
ただ、その名刺を手渡すときに、自分の仕事の輪郭を一言だけ添えられるなら、名刺の印象は静かに変わります。
「デザイナーです。長く続くお店のロゴを作るのが得意です」。
「コンサルタントです。小さな会社の事業の組み立てを手伝うのが得意です」。

その言葉を自分で理解できるところまで進んでいるだけで、名刺の肩書きに説得力が増し、相手の頭の中の余白が埋まります。

個人事業主の肩書きを決める3つの視点

では、その一言をどう決めるか。
私がよく使う順番があります。

視点1:ふだんやっている仕事を、そのまま動詞で書き出す

肩書きを「名詞」で考えると詰まります。
「自分は何という名前の職業か」を考えるからです。
そうではなく、ふだんやっている仕事を「動詞」で書き出してみます。
「お店のロゴを作っている」「商品の包装を考えている」「飲食店の開業の相談に乗っている」「庭の植栽を整えている」
動詞で書くと、自分の仕事の手触りに近い言葉が出てきます。
そこからジャンル名を引いてくると、しっくりくる肩書きになりやすい。

視点2:お客さまから言われた言葉を、そのまま借りる

あるクライアントから、こんな話を聞いたことがあります。
「あなたに頼み続けようと決めたのは、デザインがうまいからじゃなくて、我々のお客様の取材まで一緒に出向いてくれて、うちの仕事を一緒に見てくれると感じたからだよ」と。
その言葉を、私はずっと覚えています。

お客さまが自分のことを誰かに紹介するとき、どんな言葉で説明しているか。
直接聞いてみると、思っていたのと少し違うことがあります。
自分で考えた肩書きより、お客さまの言葉のほうが、新しいお客さまにも届きやすいことが多い。
借りられるなら、借りたほうが早いです。

視点3:余白を残しておく

1行に全部を入れようとしないことも大切です。

「ロゴデザインから事業の組み立てまで幅広くサポートする〇〇」と書きたくなる気持ちは、私にもありました。
仕事の幅を狭めたくない、可能性を残しておきたい。
ただ、欲張ると1行が長くなり、ぼやけます。
読んだ人は何も覚えてくれない。

名刺は、その人のすべてを書く場所ではありません。
いちばん伝えたい「何屋です」を1行で置いておき、残りは会話で広げればいい。
もちろんそれにはある程度の経験と自信が必要ですが、そう思えると、肩書きは短くていい、と肩の力が抜けます。
また、肩書がシンプルで仕事の幅を幅広く感じてもらったほうが、想像していないお客様からのご相談も増えて、楽しいという面もあります。

名刺の1行が決まると、デザインも決まる

肩書きが決まると、不思議とデザインの方向も決まります。
「デザイナー」と書く人の名刺は、派手な装飾は似合わないかもしれません。
余白の多い、静かな書体の名刺が、自然と合ってくる。

「ブックデザイナー」の名刺は、紙の質感が気になりそうです。
指でつまんだときの厚みや手触りが、名刺そのものを小さな書籍の代わりにしてくれる。

肩書きが決まれば、書体も色も紙も、その肩書きに合わせて選べばいい。
デザインで迷わなくなるのは、見た目の正解を見つけたからではなく、自分の仕事を一文に縮められたからです。
名刺を作る前に、その一文と向き合う時間を、少しだけ取ってみてください。

渡部忠

ロゴやパッケージ、Webサイト——デザインに関わることで迷っているとき、手がかりになればと書いています。もし具体的に動き始めたいと感じたら、下からご相談ください。

渡部 忠(わたなべ ただし)

デザイナー

  • STUDIO FELLOW — ロゴ・パッケージ・Web・グラフィック・ブランドのデザイン(2004年〜)

長野県安曇野市を拠点に、全国のクライアントと仕事をしています。

Webやグラフィックのご相談を受け付けています

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