この記事でいう「ブランディング」とは、商品やサービスの広告・宣伝のことではなく、「自分(自社)が何者で、誰のために何を提供しているのか」を言葉や見た目で整え、一貫して伝えていく活動のことを指しています。デザインの刷新や、ロゴ・コピーの制作、発信の方向性を整える取り組みが、ここでいうブランディングです。
「ブランディングを依頼すると、年間で100万円から数百万円かかります」。
検索ページに並ぶその数字を見たあと、本当にこれを払って、自分にどれだけ返ってくるのだろう——画面の前で手が止まる方が多いと思います。
その数字を前に止まるのは、当然の反応だと思います。
今日は、ブランディングの費用対効果という問いを、少しだけ違う角度から眺めてみる回です。
費用と効果のあいだに、もうひとつ「身の丈」というものさしを置く、という話です。
ブランディングの費用対効果が、見えにくいと感じるとき
「ブランディング 費用対効果」と検索して開いたページに、新規接触率、KPI、リード数、中長期投資——そうした言葉が並んでいるのを見たとき、うっ!となる方も多いと思います。
書かれていることは、間違っていません。
長く続いている企業が予算の説明責任を果たすときには、そうした指標で検証していくのが筋でしょう。
※ KPIとは:目標の達成度を測るための数値指標のこと(Key Performance Indicatorの略)。「月の問い合わせ件数」「リピート率」なども、立派なKPIです。リード数は「顧客になる可能性のある見込み客の数」を指します。
ただ、店舗を持って数年、あるいは独立して数年の事業者が、ふだんの仕入れや明日の現場の合間に開いたページにそれが並んでいると、自分の規模との距離を少し感じます。
毎月の支払いの中に、新しく10万円や20万円の予算を入れるのは、簡単な決断ではありません。
その額を1年、2年と払い続けて、いつ、何で、回収できたと判断するのか。
そこが見えないと、見積もりの前で手が止まります。
費用対効果が見えにくいと感じるのは、感覚の鈍さではなく、ブランディングという活動が、短期の数字と相性が悪いだけ。
そう置き換えると、見方が少し変わってくると思います。
効果測定の手法に手を伸ばす前に、立ち止まりたいこと
ブランディングの効果測定について書かれた記事は、おおむね似た構成で組み立てられています。
この体系は、間違っていません。
ただ、ひとり、あるいは数人で回している事業の現場で、これを毎月計測し、改善のサイクルに回していけるかというと、別の話になります。
数字を集める手数そのものが、本業の時間を少しずつ圧迫していくからです。
それから、もうひとつ。
KPIを置く話の手前で、本当はもっと根本的なことが決まっていません。
「いくらまでなら、不安にならずに払い続けられるか」。
この金額が決まっていないと、効果測定の数字が良くても悪くても、毎月の支払日に胸がざわつくことになります。
ブランディングは「投資」と呼ばれることが多くて、ふだんの経費とは別の枠で語られます。
でも、現場で実際に動いているのは、月々の通帳から落ちていく金額です。
効果を測ろうとする前に、その金額が、自分にとって無理のない大きさかどうかを、先に決めておく。
それがあると、数字を眺める手も、ずいぶん落ち着いてきます。
ブランディングの費用対効果を、自分のものさしで考える
ここからは、私がふだんお客様とお話しているときの、3つの視点をお伝えします。
費用対効果の問いの順序を、少しだけ組み替える話です。
視点1:毎月の支払いに不安が走らない金額を、先に決める
売上の何%という考え方より、まず「不安なくぐっすり眠れる金額」で考えてみることを、私はよくお勧めしています。
月に5万円なら気にならない、10万円だと毎月の引き落としで少し緊張する、15万円は厳しい——そんな手触りで構いません。
あるクライアントとお話していたとき、見積もりを並べて机に並べたその場で、「この金額で1年、続けられそうですか」と先にうかがったことがあります。
返ってきたのは、見積もりの3割ほどの数字でした。
そこから設計を組み直したら、結果として3年続いて、いまも続いています。
続けられたから、効果が見えてきたのだと思います。
正直、私自身も、自分の事業の予算となると、ここは毎回迷います。
視点2:効果を、3つの長さに分けて見る
費用対効果を1つの数字で測ろうとすると、苦しくなります。
3つの長さに分けるのが、私のやり方です。
短期(1〜3ヶ月)に見えるのは、自分の中の整理。
何を売って、何を売らないか。
それが自分の言葉で言えるようになる感覚です。
中期(半年〜1年)に見えるのは、お客様との関係の手触り。
「変わったね」と言ってもらえる回数、紹介の増え方、リピートの厚み。
長期(2〜3年)にようやく見えてくるのが、売上や利益の景色。
ここで初めて、数字としての回収が話せるようになります。
視点3:1年で結論を出さず、3年で振り返る前提で予算を組む
ブランディングの費用対効果は、1年では決着しないことが多いです。
1年で振り返ろうとすると、見えていないものまで「効果なし」と書いてしまいがちです。
3年続けられる規模で予算を組んでおくと、毎年少しずつ整えていく余裕が生まれます。
1年目で芯を作り、2年目で広げ、3年目で深める。
そのくらいの長さで考えるほうが、結果として、最後の数字も良くなる印象があります。
ひとつの考え方として、続けられる規模で始める
ここまでお話してきた順序は、ブランディングの費用対効果について、唯一の正解ではありません。
事業の規模やフェーズによって、入口は変わります。
ただ、事業者や店舗オーナーの規模で考えるなら、「いくらかけたら、いくら返ってくるか」を最初に問うより、「いくらなら、不安にならずに続けられるか」を先に決めるほうが、結果として続いていきます。
続けられたものだけが、3年目に景色を見せてくれる、というのが、これまで関わってきた仕事から学んだことです。
費用対効果という言葉を、3年の長さで使い直してみる。
そのあたりから、考えてみるとよいのではないでしょうか。



