複数人が集まるオンライン会議や会合で、ときどき出会う光景があります。
みなさん前向きな気持ちで集まっていて、それぞれに話したいことも、こうなったらいいなという思いも持っている。けれど、はじめのうちは、画面に並ぶ表情が少し固い。誰が最初に話すのか、様子をうかがうような時間が流れます。
そんなとき、自分を下げて、みんなを笑わせにいく人がいます。
自分のちょっとした失敗を先に話したり、少しとぼけたことを言ったり。勝ちにいくのではなく、負けの姿勢で、場を和ませにいく人です。
笑いが起きると、場の空気がゆるみます。表情が動いて、声のトーンが変わる。そこから、それぞれのいつもの言葉が出てくるようになります。
私は、こういう人のことを、心の強い人だと感じています。そして、もうひとつ思うことがあります。私が好きなクリエイターには、こういう人が多い、ということです。
そう感じる理由を、もう少し書いてみます。
場が和むと、本音が出てくる
場が和むと、話しやすくなります。私がいいなと思うのは、その先です。
緊張がとけると、言おうと思っていたことの、もう一段奥にある思いが出てくることがあります。「実は、ずっと気になっていたんですけど」。そう始まる話に、何度も気づかされてきました。
そうした話が重なっていくと、集まった人たちだからこそ出せる答えが見えてきます。最初に場を和ませてくれた人がいたから、そこまで話が進んだ。そう感じたことが、これまでに何度もありました。
組織の研究では、こうした状態を「心理的安全性」と呼ぶそうです※1。チームの中で、思ったことを言っても大丈夫だと、みんなが感じられていること。Googleが社内のチームを調べたときも、成果の高いチームを分けるいちばん大きな要因は、この点だったといいます※2。会議の中で感じてきたことに、あとから名前がついたような気がしました。
自分を下げて場を和ませるということ
人の前では、ちゃんとして見られたい。誰にでも、そういう気持ちがあると思います。私にもあります。オンライン会議の日だけ、画面に映る上半身はきちんとしたシャツを着ているくらいには。
負けの姿勢で場を和ませにいく人は、その気持ちを、その場ではいったん置いてくれます。それも、誰かをいじるのではなく、自分を話のネタにするかたちで。誰も嫌な思いをしない笑いを、自然に選んでいるように見えます。
そういう人の話を聞いていると、言葉の端々に、参加している人たちへの敬意が感じられます。自分を下げてはいても、相手のことを軽く扱うことはない。集まってくれた人や、それぞれの考えを大事にしている気持ちが、冗談の中にもちゃんと表れています。だから、笑ったあとに嫌な感じが残らないのだと思います。
画面越しの会議では、反応がわかりにくい分、対面よりも勇気がいるはずです。それでも先に動いてくれる。自分を守る強さとは少し違う、誰かのために自分を下げられる強さだと思います。
ここでいう「場が和む」というのは、みんなが大笑いしている状態のことではありません。少し肩の力が抜けて、言葉を選びすぎなくてもいいと思える。言い間違えても大丈夫だと感じられる。それぞれが、いつもの話し方や表情に戻れる。そのくらいの状態です。
笑わない人がいてもいい
場が和んでも、表情があまり変わらない人もいます。それも、その人らしさだと思います。真面目に聞いているのかもしれないし、もともと表情が穏やかな人なのかもしれません。
場を和ませる人は、みんなに笑ってもらおうとしているわけではないように見えます。笑う人も、静かに聞いている人も、そのままで思っていることを話せる。そういう場をつくっているのだと思います。
私が好きなクリエイターに共通すること
デザインに限らず、ものをつくる仕事は、相手がまだ言葉にしていないことを聞くところから始まることが多いと思います。
依頼してくださる方の「本当はこうしたい」は、最初の打ち合わせで出てくるとは限りません。少し打ち解けたころに出てくる一言。そこに、いちばん大事なことがある場合も少なくありません。
場を和ませる人は、その一言が出てくる雰囲気を、自然につくれる人です。画面に並ぶ固い表情に気づけて、自分がどう見えるかより、場や相手がどうなるかを先に考えられる。そして、人それぞれの違いを、そのまま受け止められる。
どれも、ものをつくる仕事に必要なことと、よく似ていると感じます。
「デザイン思考」を広めたことで知られるアメリカのデザイン会社IDEOのケリー兄弟は、新しいものを考えるときにいちばん邪魔になるのは、失敗そのものより、人からどう見られるかへの恐れだと話しています※3。場を和ませる人は、自分が先に下がることで、周りの人からその恐れを少しずつ取り除いているのかもしれません。
つくったものは、いつも誰かのためにあります。自分をよく見せることより、相手が楽になることを選べる人は、つくるものも、相手のほうを向いたものになっていく。そういう人のまわりには、自然と人が集まってくるのではないでしょうか。
もちろん、場を和ませるのが得意でなくても、すばらしいものをつくる人はたくさんいます。静かに、じっくりと向き合うことで、相手の思いをくみ取る人もいます。
それでも私は、場の空気に気づいて、自分を下げて場を和ませられる人に惹かれます。一緒に仕事をしたいと思うのも、長くお付き合いが続いているのも、振り返ると、そういう人が多いように思います。
注釈
※1 Amy C. Edmondson「Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams」Administrative Science Quarterly, 1999 原文
※2 Google re:Work「Understand team effectiveness」 原文
※3 Tom Kelley・David Kelley『Creative Confidence』2013(邦訳『クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法』日経BP, 2014)/Tom Kelleyへのインタビュー(TechNode, 2014) 原文
